代表挨拶
今年度より「プラスチックの未来を考える会」の代表に就任いたしました北陸先端科学技術大学院大学学長の寺野稔と申します。
プラスチック問題は、地球環境問題や資源問題、さらには石油化学産業の産業構造とも関連した複雑な問題であり、この問題を解決するためには、理学や工学に代表される自然科学の知識だけでは不十分で、自然科学の知識と経営学を含む社会科学の知識との融合が必須と考えられます。また、このような問題に対し、限られた知識で対策案を立案し、それを実践してしまうと、思わぬ副作用に見舞われることも起こりえます。
例えば、資源の有効利用の一方策として、先進国で回収された古着が、開発途上国に輸出されていますが、古着としての需要は限定的で、多くは廃棄され、海洋プラスチックゴミの発生源の一つとなりうる状況を創り出しています。さらに、先進国から開発途上国への古着の輸出は、開発途上国の繊維産業やアパレル産業の衰退を招き、開発途上国の経済発展を妨げてもいます。古着を寄付した人々は、環境問題への貢献や低所得層への支援という崇高な理念に基づき行動していると思われますが、限られた知識によって立案される対策は得てして、思わぬマイナスの効果をもたらすことがあるということを示す一つの事例と言えると思います。この様な思わぬ副作用を避けるためには、プラスチック問題の全体像を把握する活動が有効だと考えられます。加えて、プラスチックの有する複雑な問題を解決し、イノベーションを実現するためには、プラスチックに関わるプレイヤーの共創が欠かせません。それぞれのプレイヤーが持つ知見を結集し、隠れた問題点を明らかにするとともに、互いの強みを活用し、補完し合うことが重要と考えられます。
このような背景を踏まえ、「プラスチックの未来を考える会」では、広くプラスチックの諸問題の解決とイノベーションの実現の両立を目指し、リサイクルやバイオマス化なども含めた自然科学と社会科学の融合によるプラスチック問題の全体像の把握や企業の枠を超えた産官学それぞれのプレイヤーの共創を念頭に、活発な議論を重ねてきました。1年間の活発な議論の結果、プラスチック問題の全体像がおぼろげながらも把握できつつあり、これまで気づいていなかった問題の発見も為され、手を打つべき核心的な課題や進むべき方向性が明らかになりつつある状況と聞いています。
昨今、プラスチックは、ともすれば悪者の様な扱いを受けていますが、プラスチックは豊かな人類の生活、社会の実現に大きく貢献してきたものであり、人類、および社会にとってなくてはならない材料です。「プラスチックの未来を考える会」での成果を基に、未来永劫プラスチックが活用できるよう、プラスチックの諸問題を解決するとともに、サーキュラーエコノミーへの転換を促進し、わが国発のイノベーションを実現することを期待しています。そのためには、研究・開発、政策提言、新たな社会システムの構築、インフラの整備、標準化など様々な活動が必要となってきます。今年度は、これまでの議論を深めるとともに、会員間の共創を強化して、具体的な対策を実行するステージへと歩みを進める時でもあると考えています。我々、北陸先端大も積極的に支援していくつもりにしています。
以上、簡単ではございますが、代表としてのご挨拶とさせていただきます。
プラスチックの未来を考える会 代表 寺野 稔
北陸先端科学技術大学院大学 学長